はじめに:高齢者のおでかけに介護保険外サービスが必要な理由
高齢になると、体力や健康面での不安が増し、外出の機会が減っていく傾向があります。「行きたい場所はあるけど一人では心配」「家族に毎回頼むのは申し訳ない」——そんな想いを抱える高齢者が少なくありません。
介護保険制度は、基本的に日常生活に必要な介助を目的としており、通院や買い物などは対象となっても、観光や趣味の外出は対象外です。こうした“楽しみ”に関わる外出は、心の健康や生活の質(QOL)を高める大切な機会であるにも関わらず、制度の範囲では支援が難しいのが現状です。
そこで注目されているのが、介護保険の枠外で提供される「介護保険外サービス」です。この記事では、そうした外出支援サービスの特徴や活用方法、具体的な利用事例、費用感、安心して利用するためのポイントまで、分かりやすく丁寧にご紹介します。
1. 介護保険外の外出支援サービスとは?
1-1. 制度に縛られない“本人中心”の自由な支援
介護保険外サービスとは、制度の制限を受けずに提供される自費サービスのことです。高齢者の「行きたい」「やってみたい」といった希望を出発点に、移動や付き添い、生活支援を柔軟に提供します。
外出支援サービスにおいては、旅行や観劇、墓参りなど、“生活必需”とは異なる外出にも対応しているのが特徴です。本人の希望を叶えることを目的としているため、計画の立案から実行まで、利用者に合わせたサポートが受けられます。
1-2. 高齢者の「外出したいけど不安」という声に応える
高齢者が外出をためらう主な理由は、「転倒や体調の変化への不安」「トイレの不安」「交通機関の乗り換えが難しい」「迷子になるかもしれない」など、複数の不安要素が重なっていることです。
さらに、家族も高齢であったり仕事で多忙だったりすると、頻繁に付き添うことが難しい場合もあります。こうした背景から、外出支援のニーズは年々高まっています。
2. 外出支援サービスの対象と具体的な内容
2-1. どんな人が対象になるのか?
このサービスは、要介護認定を受けた方だけでなく、身体に不安を感じる高齢者や障がいのある方、あるいは認知症の初期段階の方にも幅広く利用されています。
「元気だけど一人で遠出するのは不安」「車椅子だから誰かの補助が必要」といった方も対象です。
2-2. 具体的なサービス内容
外出支援サービスでは、以下のようなサポートが受けられます:
- 自宅から目的地までの移動支援(公共交通、介護タクシー等)
- 外出中の歩行介助、車椅子の操作、荷物の運搬
- トイレや食事のサポート
- 旅行プランの立案と予約代行
- 必要に応じた医療的配慮(服薬、バイタルチェックなど)
- 観光ガイドや通訳(観光型サービスの場合)
3. 活用事例で見る「できた!」の瞬間
3-1. 温泉旅行をあきらめていた母の願いが実現
80代の女性が「もう旅行は無理」とあきらめていた夢を叶えた事例です。娘さんが外出支援サービスを手配し、介護福祉士資格を持つスタッフが同行。
宿泊先のバリアフリー確認、移動手段の手配、温泉への安全な入浴サポートまで行われました。安心して旅ができたことにより、親子の絆も深まったといいます。
3-2. 趣味の再開で表情が明るくなった男性
日々閉じこもりがちだった要介護1の男性。以前から好きだった公園散歩や喫茶店での時間を、外出支援サービスのサポートで再開。数週間で表情が明るくなり、家族との会話も増えました。
「日常に楽しみが戻った」という実感は、本人だけでなく家族にとっても大きな意味があります。
3-3. 家族の介護負担が軽くなる効果も
認知症の母と暮らす60代の女性は、外出時の付き添いに心身ともに疲弊していました。外出支援サービスを利用することで、移動やトイレ介助をプロに任せることができ、母と過ごす時間を“楽しむ時間”に変えることができました。
4. サービスの利用方法と費用感
4-1. 利用の流れ(相談から実施まで)
- 相談・問い合わせ(電話・Webなど)
- サービス内容と希望のヒアリング
- 提案・見積もり
- 契約と準備(必要な予約や確認)
- 当日の同行サポート
- 場合によっては事後報告やアンケート
4-2. 料金の目安
- 2〜3時間程度の外出:8,000〜15,000円
- 半日(4〜5時間):15,000〜25,000円
- 1日(6時間以上):30,000〜50,000円前後
- 1泊2日の旅行:1日40,000円〜+交通費・宿泊費実費
医療的サポートや夜間の同行など、特別な対応には追加費用が発生する場合があります。
5. 安心して利用するために
5-1. 業者選びでチェックすべきポイント
- スタッフの資格(介護福祉士、看護師など)
- 緊急時の対応体制(医療機関との連携)
- 過去の利用実績や口コミ
- 損害保険・賠償責任保険の加入状況
利用前には必ず契約内容を確認し、見積もりの内訳やキャンセルポリシーも明確にしておくと安心です。
5-2. 医療的ケアが必要な場合の対応
持病のある方、服薬管理が必要な方は、医療的対応が可能なサービスを選びましょう。
看護師が同行可能か、救急時の対応はどのように行われるのかを事前に確認しておくことが重要です。
6. 「ちょっとそこまで」からはじめてみる
「旅行はハードルが高い」と感じる方も、まずは身近な場所への外出から始めてみましょう。
- カフェでお茶を飲む
- 昔よく行った公園を散歩する
- 図書館で静かな時間を過ごす
こうした小さな外出を重ねることで、スタッフとの信頼関係も築け、次第に「もっと遠くへ行きたい」という気持ちが芽生えてきます。
まとめ:高齢者の「行きたい」をかなえるもう一つの選択肢
介護保険ではカバーしきれない“楽しみ”の外出——それを叶えるのが、介護保険外サービスです。
高齢者が自分らしく、そして前向きに日々を過ごすために、「行きたい」という気持ちをあきらめずにいられる環境づくりが求められています。
まずは小さな外出から、そして必要なときにプロの手を借りる。その選択肢が、これからの高齢社会において、大きな意味を持つはずです。